PROJECT STORY 02
プロジェクト

データの向こうに未来を見る。

MDB事業本部に持ち込まれたのは、グローバル展開も行う国内大手企業からの「海外で先行して販売している新商品を、日本国内で販売すべきか?」という疑問だった。指定された情報を調べるだけでなく、クライアントが最終的に意思決定に辿りつく、そのプロセス全体を支えたい。そんな想いのもと、クライアントと正面から向きあい続けた二人のリーダーから、プロジェクトにまつわるやりがいや苦悩、JMARのこれからの展望を聞いた。

Member

Y. S
2009年度 入社

MDB事業本部
メンバーサービス室 室長

オーストラリアの大学の在学時に、日本の総合商社の現地法人でパートタイムとして勤務していた。そのときに市場調査の奥深さに触れ、帰国後にJMARに入社するに至る。

K. I
2008年度入社

MDB事業本部
経営・マーケティング研究部 部長

大学では社会心理学を専攻。一時期はアカデミックな領域でキャリアを構想していたが、より広い世界で自分の力が役に立つキャリアを探し、JMARに辿りついた。

Story01
橋渡しから始まったプロジェクト
Y.S
最初にプロジェクトの相談を受けたのは私でした。連絡をくれたクライアントは、主に衛生用品を製造・販売している国内の大手企業で、「ある商品をヨーロッパで先行販売しているのだが、それを日本でも販売できないだろうか」という相談でした。もし、日本での販売に踏み切るのであれば、販売戦略の立案まで含めた大きなプロジェクトになります。これまでの経験から、担当している公開情報の提供だけでは不十分であると判断し、「公開情報の収集にとどまらない、総合的な支援が必要かもしれない」とK.Iさんに伝えました。
K.I
そうでしたね。そもそも、こういう大きな相談が寄せられるのは、クライアントがMDBの会員サービスを利用していて、気軽に相談してもらえる関係性が築けていたことが大きかったと思います。Y.Sさんは、日頃から相手の「相談相手」であることを心掛けている。ちょっとした相談にも乗れるような、気さくな関係の維持に努めてくれています。それが、早い段階から相談してもらえる、結果として我々がプロジェクト全体をご支援できる状態をつくったのではないでしょうか。
Y.S
ありがとうございます。まず私は、「国内市場に投入すべきかどうか」という問題の参考になるような公開情報の収集を始めました。広く網をかけて情報を収集したものの、やはりクライアントが意思決定できるほどの充分な情報は得られませんでした。新規性の高い商品であったため、どうしても情報が少なかったのです。そこで、改めてK.Iさんに、この案件を担当してくれるよう依頼しました。
Story02
豊かな暗黙知が指し示す成功への道
Y.S
クライアントの意思決定を支援するために必要だったのは、「需要予測」「コアターゲットの導出」「コアターゲット向けの施策」の3つでした。ただ日本での需要の有無を測るだけではなく、そのなかでもコアとなるターゲットユーザーをあぶり出し、ユーザーに向けたマーケティングの戦略を立てるという3つのポイントを押さえておかなければならなかったのです。
K.I
その3つの目的のために、私たちは調査の設計を始めました。まず、需要予測は、消費者にも分かりやすいように商品やサービスのコンセプトを加工して、1万人を対象としたアンケート調査を行うことにしました。年齢や性別を調整して、1万人のうちの何%がそれを使いたいと答えるのか、それが需要を測るためのデータになります。そして、アンケートの項目にも工夫をしましたね。アンケートの質問事項は、そのまま「コアターゲットの導出」と「コアターゲット向けの施策」につながります。後々の販売促進活動が上手くいくように、あらかじめアンケートを設計できたのは、JMARに数々のモデルケースがあったからだと思います。
そうですね。私たちは、これまで様々なお客様のお手伝いをして、その結果を第三者として見続けてきました。その成功と失敗のモデルケースが膨大にあるからこそ、アンケートで聞いておくべきことが暗黙知として分かっていました。
Story03
気持ちのざらつきを超えて、
寄り添う
Y.S
調査が決まるまでの過程は、決してスムーズに進んだわけではありませんでした。JMARに依頼をしたクライアント企業は、以前から付き合いのあるシンクタンクにも同様の相談を持ちかけていました。私たちにとってライバルとなるシンクタンクは、5年前にそのクライアントの調査を請け負っており、一定の成果を上げていました。一方で、K.Iさんはその調査設計の急所を的確に指摘しました。そのライバルの5年前の調査設計は、コアターゲットが見つかっても販売促進の手法が分からないという設計であり、需要の有無が分かる程度のものでしたからね。
K.I
私の指摘を受けて、クライアントの担当者は顔を曇らせてしまいました。私たちからダメ出しを受けているような形でしたからね。もちろん、私はその雰囲気を察していましたが、それでも指摘をやめませんでした。それは、私たちが真剣に役に立ちたいと思っていたからです。そのためには、クライアントにとって耳が痛くても、言葉を尽くさなければなりません。
Y.S
そもそも、クライアントとなる新規事業の担当者の中には、リサーチを重視しない人もいます。彼らにとって、市場調査はあくまで業務の一つでしかないためです。しかし、私たちにとって、リサーチは事業の成功と失敗を決定する、とてつもなく重要なものです。
K.I
そうして、私たちは繰り返しリサーチの重要性を伝え続けました。最終的に私たちの提案に決まったのは、販売戦略の方向性を検証できるほどの強度を持ったデータを得られると評価されたからでしたね。
Story04
まるでクライアントの
社内メンバーのように
K.I
今回の調査は、新製品の需要の予測とコアターゲットの導出が可能になるだけでなく、一般消費者の衛生的な問題意識も明らかになるものでした。そのため、クライアント企業の他部門から、質問を追加したいという声が上がりました。今回のアンケートをもとにして、消費者のニーズを知りたいと思ったからだと思います。しかし、アンケートの項目が増えすぎてしまうと、回答者が疲労してしまい、回答の精度が下がってしまいます。その落とし所を探る必要がありました。
質問を確定させるための会議には、クライアントの複数の部門の方が参加されました。そこで私は、あくまでメインの担当者の味方となり、サポートに努めました。「追加したいのは分かりますが、今回の目的を考慮すると優先度は低いですね」と、できるだけ冷静に追加質問の提案をお断りしました。
Y.S
それを見た担当者の方は、「まるで昔から当社にいる社員のようですね」とK.Iさんに言われたんですよね。
K.I
そう言ってくださいました。私たちは、プロジェクトが成功し、クライアントが良い意志決定をするために全力を尽くします。そのためには、あえて失礼なことを言って、その場を制御しなければならないこともあります。その姿勢に理解を示していただけて嬉しかったです。
Y.S
そういった制御は、私が担当する公開情報の提供でも同じことが言えます。クライアントの考え方、業界での立ち位置、担当者の展望によって、こちらの動き方も変わってきます。そういった微妙な塩梅を可能にするのは、長年この仕事を続けてきたことで形成されてきた経験則ですね。
Story05
AI時代のシンクタンク
Y.S
今回のプロジェクトを通じて、私は3ヶ月の間、濃密な時間をクライアントと共に走り続けられたことに価値を感じました。提案書に記載した調査が完了してからも、さらにその先の事業について、クライアントから相談がありました。それは、データにもとづく調査の先にあるコンサルティング業務まで、JMARに期待されていることの現れではないでしょうか。もちろん、リサーチャーにとって、調査が主な仕事であることには違いありません。しかし、そこから一歩進むと、データではなく一緒に考えるだけの時間が始まります。
K.I
Y.Sさんが言うとおり、データでいけるところまで進むと、そこから先に「思考する、考える、悩むしかない領域」が広がっています。どれだけ情報を集めても、データでは分からない問題が残ってしまうものです。事業戦略、競争戦略を考えるというプロセスは、本来そういう宿命にあると思います。私はその戦略検討を、データの力でできるだけ実りあるものにしたいと考えています。データだけでは戦略は立案できない、だからこそデータでわかることはデータで把握し、その後の思考・発想を後押しする。そんなイメージです。調査が終わったあと、クライアントとともに調査結果について議論しながら、戦略へと思考を昇華させていくプロセスを支援できるのがJMARの役割であり、この仕事の魅力だと思います。
Y.S
そうだと思います。そして、クライアント様がビジネスを成功させたいという想いは、企業独自の強みがある、つまり独自性を発揮できる状態を目指すということだと思います。現代では、生成AIといったテクノロジーを活用した情報収集も可能ですが、そこで手に入る情報は誰でも見られる情報に限られるため、独自性の発揮を手助けすることは難しいです。
K.I
そうですね。クライアント様の成功を心から願い、人の手でしか手に入らないデータを集め、そしてデータの先まで一生懸命考える。それこそが、今の時代におけるJMARの存在意義ではないでしょうか。
Story06
自分の考えの正しさを、
信じられない人たちへ
Y.S
リサーチャーは、常に自分の思考をもとにして、クライアント様に価値を提供します。しかし、自分の考えを正しいと信じるのはそう簡単ではありません。K.Iさんは、どうやって自分の考えに自信を持っているのでしょうか?
K.I
個人が自信を持つこともとても大切ではありますが、JMARという「知の基盤」の力強さを信頼してもいいと思います。JMARは、中立性・公共性を保ちながら、膨大な知見を蓄え、お客様に誠実であろうとし続けています。そうして、確固として知を提供できる組織になろうとしているんです。そういった基盤があるからこそ、自分の考えに自信を持てない方でも、安心して来てほしいと思います。
Y.S
なるほど。私の場合は、いかに挫折を乗り越えるか、それが自信をつける方法だと思います。これだけ考えたから、きっと評価をしてもらえると期待したところに、きっぱりと自分の考えとは異なる現実が突きつけられる。そのギャップを、私は挫折と呼んでいます。期待を裏切られることは辛いですが、その現実を受け入れ、自分にできることを考えて行動することができれば、その経験は徐々に自信になっていくのです。私自身も、振り返ってみると多くの挫折を重ねてきましたから。
K.I
そうですね。そして、JMARには色々なことにチャレンジできる風土があります。だからこそ、挫折の経験も増えるかもしれませんが、それを乗り越えていけば、自然と自信のある人になっていくはずです。